営業時間:9:00~18:00
定休日:土曜・日曜・祝日
パワハラとは何か
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」
パワハラを定義と言われる文言で表現しますと、これに該当するものということになるようですが、○○ハラスメントと言われるものは、何十種類もありますので、広く見る必要があると思います。
労働施策総合推進法第30条の2
第30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
この職上の優位性(これが「パワー」)に基づいて、あるいは、それを利用して、いじめ・嫌がらせ行為をすることになります。
優位性を考えるうえで、一方に優位性があるとは言えないような同僚間での行為はどうなのかについては、
原告は被告に「カートリッジを1つ注文してください」と告げた。被告はひごろ原告の口調に不満があり横柄に2,3個注文すると告げた。原告は、「2つも3つも一度に買ったら置く場所がないし、値段も高くつく」と言うと、被告は「それだけ分かっているのならあんたがやればいいじゃないか」と言い返した。原告は「注文の仕事も覚えなあかんでしょ」など言い返し、被告は「いつもいつも指図するな」と言って口論になった。被告は「あんたはいつも指図する。俺は女に指図されるのはきらいなんや」等と言い、原告は「指図はしていない」と言い、被告は「暇があるんやったらお前がやれ」と怒鳴ったことで、原告も「誰が暇あるんや」と怒鳴った。激高した被告が右平手で原告の左顔面を1回殴打した。裁判所は、本件暴行は被告会社の業務の執行つき加えられたもので、被告会社は被告と連帯して損害賠償の責任を負う」として、同じ課に属する同僚間の暴行で使用者責任が認められた。なお、暴行事件の後に、仲直り、上司による解決の報告があつたが、損害賠償を請求しないとの和解あるとは言えないとされている。【アジア航測事件・大阪地判平13.11.9労判821号45頁】
などの例があり、同僚の行為が、決してパワハラ問題にならないと言えるものではないようです。
優位性は、先輩・後輩、年上・年下、業務スキルの高い・低い、仕事ができる・できないなど幅広く捉えなければなりません。
厚生労働省が提言として通知する典型的なパワハラ類型です(これに限定してはいません)
(これら以外の行為が問題がないわけではないことに注意する必要があります!)
➀暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
※➀から③は業務上必要なことの範囲にはあたらないとされていますが、④から⑥は、業務の適正な範囲の線引きが難しく、行為の状況などから個別にみなければいけないものです。
※100例あれば100通りの行為があり、みな異なりますので非常にやっかいな問題です。
このように様々なパワハラが考えられますので、パワハラと声が上がった場合には、対応しなければなりません。労働施策総合推進法がなかった時から、会社の対応は求められたのですが、労働施策総合推進法が施行になってからは、法律上の義務になりましたので、どう対応するかを検討することになります。
パワハラ対応は、企業の措置として、日ごろから、対応の仕組みを構築しておくことが肝要です。調査の方法、段取り、相談窓口など多くの要素があります。一般に、会社では、たとえば、調査と言っても、何をすればいいのか、どういう方法でやればいいのかなど、不慣れなために戸惑うことも多いかと思います。
では、パワハラの定義で検討して、パワハラには当たらない場合には、対応しなくてもいいのでしょうか?
パワハラの声があったが、どう見てもパワハラとは言えない出来事だという場合には、会社は、どういう態度にでればいいでしょうか?
完全に、パワハラではないという場合は、被害者と言い得る本人に説明して、理解してもらうことも考えられます。
しかし、多くの場合は、本人はパワハラ行為を受けたとして納得しないかと思われます。会社としても、被害者の主張が強ければ、対応に迷いが生じる可能性も出てきます。
このような、状況が想定される場合には、パワハラに当たらない出来事でも、声が上がった以上は、対応することを検討した方がいいでしょう。
パワハラは、加害者も被害者も感情が先に来ている例が多く、客観的説明で収束できない場合もあります。対応を検討することが、先決とも考えられます。
パワハラがもし、会社の責任となれば、会社は、被害者と言い得る者が要求して、支払を結論付けられれば、損害賠償の支払いということになる可能性があります。
この損害賠償の中身は、職場環境の問題と使用者責任の問題になります。
パワハラを含めたハラスメントは、多くの場合で、職場環境を良好に維持する義務に関係してきます。被害者と言い得る者の人格的利益を侵害したなどの主張がなされます。
この人格的利益とは、良好な職場環境、信用、名誉、健康、自由な人間関係の形成、自己決定、仕事へ意欲など、従業員にとっての利益を意味します。
パワハラが厄介なのは、パワハラの被害者と言い得る者は、パワハラだと受け止めていないからパワハラなどにあたらないとなるわけではないことが、セクハラとの大きく違う点です。
パワハラで企業責任が問われるかは、パワハラとされる出来事、事前措置、事後対応など総合的に検討することになります。
●配置転換が退職強要の問題になった例
顧客への接客態度の問題、特定業務の自粛指示に抵触する行為、業務の懈怠、女子社員の教育をしなかったなどを理由に始末書を幾度となく提出し、降格・降職のうえ配置転換となった原告が、人事権の濫用で無効等を主張した事案である。裁判所は、降格・降職は人事権の裁量の範囲であるとした。しかし、配置転換については、函館市内統括部強化の目的のものなのに、1か月程度で今金支店に移動させるなど不自然で、未だ合理的説明がなされてない、大幅な減給を行い、新築の自宅がありローンがあるのを知りながら、単身赴任を強いて経済的に二重生活を余儀なくされる配転行為であるとした。結果、慰謝料の点では、電話応対や雪かきの件で、部課長10名の面前で被告から嘘をつく職員は使えないなどと叱責されたこと、函館支店の通常業務から外され、就業規則やその他諸規程を読む作業に専念するよう余儀なくされたこと、原告に対する指導教育上の措置、配慮があったことを窺えないことなどから、「原告に対し暗に退職を強要しているものと推認されてもやむを得ない状況にあると思料され、仮にそうでなくとも、被告の原告に対する措置は、原告にことさら屈辱感を与えるものであ」るとし、「業務命令権なし労務指揮権の濫用として違法であ」り、「原告は精神的な人格的利益を侵害されたものと認められる」とされ、使用者責任が認められている【渡島信用金庫事件・函館地判平14.9.26労判841号58頁】。
これは、配置転換の例ですが、配置転換の態様によっては、人格的利益侵害とされて、パワハラとの主張も考えられます。
また、次のような退職・解雇を示唆する言動がパワハラになり得る例もあります。
「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべき」「会社にとって損失」「辞めていいよ、辞めろ、辞表を出せ」「これ以上続けると、われわれも相当な処分をするからな」「会社を辞めた方がみんなのためになるんじゃないか」「俺は、いつでもやめさせることできんだぞ」
その他に、回収や時間の長さが問題になることもあります。
●回数や時間が問題になった例
「殺すぞ」「あほ」などと言ったことに対し、「監督者が監督を受ける者を叱責し、あるいは指示等を行う際には、労務遂行の適切さを期する目的において適切な言辞を選んでしなければならない」とし、「それが1回だけといったものであれば違法とならないこともあり得るとしても、被控訴人によって当惑や不快の念が示されているのに、これを繰り返し行う場合には、嫌がらせや時には侮辱といった意味を有するに至り、違法性を帯びる」と評価されています。【アークレイファクトリー事件・大阪高判平25.10.9労判1083号24頁】
・叱責の時間は概ね5~10分程度に及び、頻度は少なくとも週に2・3回程度、ミスが重なると日に2・3回程度に及んだ【岡山県貨物運送事件・仙台高判平26.6.27労判1100号26頁】
それ以外のパワハラになりやすい例
●人格否定などの言葉
「ぶち殺そうかお前」「おまえはやる気がない」「馬鹿野郎」「給料泥棒」「馬鹿だな」「使えねえな」「大学出ても何にもならないんだな」「まじめにやれ」「自己愛が強い」「子宮でものを考えている」「どうしていつもあなたはそうなの」「なんでできないの」「あなたの顔をみるとイライラする」「新入社員以下だ」「小学生の能力しかない」「その仕事ぶりは給料分に相当していない」「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」「死んでしまえ」
●パワハラの態様が問題なった例
・怒鳴る・噂をばらまく・皆の前で叱責する・書類を放り投げる・書類をみない・契約上の業務をさせずに電話当番のみささせる・草むしりのみさせる・同じことを繰り返し説教する・暑い夏に一人にだけ飲み物を与えない・冬に扇風機で風をあて続ける・メールを送信してこない・親睦会に呼ばない・業務連絡をしない・通り際にいすを蹴飛ばす・100度の熱い窯に入って掃除しろと言う
ここに挙げたのは、一部ですが、実際に必ず違法性が問われるという意味ではなく、パワハラ問題になる可能性があるという行為としての例になります。
厚生労働省管轄の労働相談件数は、毎年100万件越えですが、相談件数1位は、パワハラ・いじめ・嫌がらせというのが、最近の傾向です。
パワハラとの主張があった場合は、実態に応じた対応をする必要がありますが、重要のは、労働施策総合推進法の施行もあり、事前措置、つまり、パワハラがないようにどれだけ防止措置を行っていたかになります。
お電話での相談お申込み・お問合せ
フォームでのお問合せは24時間受け付けております。お気軽にご連絡ください。
※営業のお電話・メールはお断りさせていただいております。