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1 「ちょっとサインして」が大惨事に
労働者代表をどうやって選んでいますか
労働基準法及び労働基準法施行規則上の手続きである各種協定書、各種協定届書、就業規則意見書などに、労働者代表の署名・印が必要となっています。
よくある「おい、ちょっと、この紙にサインして(名前書いて)、ハンコウ頼むよ」(×)
こうして、目に留まった、あるいは、そばにいる従業員に気軽にサインと印鑑を求める傾向になっているのではないでしょうか。
しかし、最近は、36協定届や就業規則を提出すると、労働基準監督署のスタッフの何割かが、「どうやって労働者代表を選びましたか」と聞いてくることが相応にみられるようになりました。
これは、2019年4月1日から、労働者代表の選出の要件が厳格化されたからです。おそらく、ほとんどの企業が労働者代表の選出について、重要かつハイリスクであることを意識していないかと思われます。労働基準監督署はチェックの網を張っています。
「そんなのわかりゃしない」と思っていて、従業員の告発や調査、ヒアリングなどから労働者代表者の選出に経営サイドの意向が介入しているとなった場合には、企業労務のすべてがひっくり返るほどの大惨事になります。
万一、要件を満たさない労働者代表であると評価されると、36協定届、就業規則、労使協定などすべてが無効となってしまいます。無効になるというのは、それらの効力がなくなりますから、36協定届や就業規則、労使協定などが存在していないことと同じ状況になるということです。
これは、企業を揺るがす大問題になります。
2 今後の労働者代表の選出
労働者代表の選び方を民主的に
そもそも、もともと原則ルールは、「民主的な方法で労働者代表を選出すること」になっていましたが、さらに、厳格が要件が加わりました。全体をまとめて整理しておきます。
従来の要件と併せて2019年4月1日からの労働者代表の要件をあらためて整理すると、
㋐労働者の過半数を代表していること。
従業員総数や過半数は、正社員・パートを問わない。
㋑管理監督者でないこと
管理監督者にあたるかどうかは非常にグレーで判別しにくいため、疑問の場合は労基署等にたずねたほうが無難。
㋒何の従業員代表かを明らかにしたうえで、投票・選挙などの民主的な方法で選出すること。
※36協定の締結のための代表者、あるいは、就業規則の意見する代表者など
㋓使用者の意向に基づいて選出された者でないこと
㋔使用者は、過半数代表者が協定締結などに関する事務を円滑に遂行することができるよう、必要な配慮を行わなければならないこと。
※下線部分が新たに厳格化された内容になります。
これからは、軽く考えると非常にハイリスクがつきまとうことになります。強く意識しましょう。
3 要件を満たない労働者代表者の場合どうなるのか
民主的方法で選んでないと大変
では、民主的な方法で従業員代表を選んでいない代表者が、36協定や就業規則の意見書等に記載されている場合どうなるかみてみましょう。
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その36協定、就業規則等はすべて効力がなくなります(無効になる)。
まず、36協定届についての行政通達を示しておきます。
労働者代表の適法な選出といえるためには・・労働者の過半数を代表して36協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要(昭和63.1.1基発第1号)
次に、裁判例を3例ご紹介しておきます。
36協定に「営業部 〇〇〇〇」と記載され、選出方法は「全員の話し合い」と記載されていた〇〇は友の会の代表で友の会は労働組合の実質を備えていたので代表と主張した。友の会は親睦団体とされたため、労働組合代表でも労働者代表でもない者が署名している36協定は無効とされた〔トーコロ事件・最二小判平13.6.22労判808号11頁〕。
本給と別に支給していた各種手当を廃止し、ほぼ同額を固定残業代とする改正した就業規則、1年単位の変形労働時間制に関する協定届、36協定届を労働基準監督署に提出していた。労働者代表には、G係長が署名押印している。しかし、選出目的を明らかにした投票、選挙等の方法による手続は行われておらず、労基法施行規則の手続によって選出された者ではない者が労働者代表として署名押印しているから改正就業規則、各協定が成立しているとは認められないとされた。〔サンフリード事件・長崎地判平29.9.14 LEXDB25560073、労判1173号51頁〕
専門業務型裁量労働制に係る労使協定を労働者代表のHとの間で締結し、その届出も行っていた。しかし、Hが労働者の過半数を代表する者とされた際の選出の手段、方法は不明であり、協定届上「推薦」とあるが、・・従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表は適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない。・・専門業務型裁量労働制により通常の勤務時間は適用されないとの主張が否定された。〔京彩色中嶋事件・京都地判平29.4.27 LEXDB25546882〕
さて、どうでしょうか。どんな感じを持たれたでしょうか。
「どうやって選んだかなんて、労働基準監督署でわかりゃしないよ」
大方はこのように受け止めるのではないでしょうか。
しかし、裁判例でみたように、割増賃金未払い、労働時間の問題などの事案で訴訟提起された場合に、付随的に、労働者代表の選び方や普段の労使の合意の在り方などで、法的要件を満たしていない労働者代表であることが発覚することは十分に考えられます。
また、労働基準監督署の間口においても、労働者が労働基準監督署に相談など駆け込んだ場合に、労働基準監督署の相談員や労働基準監督官とのやりとりの中で、法的要件を満たしていない労働者代表であることが発覚することが考えられます。
発覚は、企業側のみのやりとりでではなく、コントロール不可能な状態になった際に労働者からになります。
大惨事を防止しておきましょう!
企業が行うべき対策
36協定のための代表者、就業規則の意見をする代表者、裁量労働制の協定の代表者など何の代表者かを特定したうえで、選挙や投票など民主的な方法で代表者を一度選出しておくこと。
当たり前ですが、対応策はこれに尽きます。
ポイントは、労働者代表の選出を軽くみないことです。
ぜひ当事務所に相談ください。
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