1 採用の前段階
通常、求職者は求人票などを見て「応募する」という形を取ります。まず、求人票ですが、これは、企業が出した求人広告=募集、つまり「申込みの誘引」=誘っているだけということになります。
この後、求職者が応募する行為が、「申込み」、つまり、相手からの承諾があれば契約が成立する意思表示の一方をなすわけです。
少々細かい話になりますが、採用内定の話は、採用の前段階の話ですので、まず、この求人(申込みの誘引)、応募(申し込み)、承諾の関係を抑える必要があります。
2 採用内定とは何か
一般的に見られる段取りでは、1で記載しました関係の中でみますと、募集に際して求職者が応募した申込みの意思表示に対し、企業は書類選考や面接、その他採用試験などを行って採用内定通知を出すことになります。
採用内定という言葉は、法律用語ではありません。ただ、採用内定とは採用内定通知書が交付されたことや書面による交付がなくても採用を内定とするとの連絡があったことで採用内定をしたとするのが一般的になっているようです。
この段階で、求職者は求職活動をやめたりして、内定通知を受けた会社で働けるとの確信を得ることになります。
シンプルに考えますと、その点では、採用内定は、求職者の応募(申し込み)に対する企業の承諾の意思表示になります。法的には、この段階で雇用契約が成立することになります。
3 採用内定はいかなる性質か
また別の機会で内定取消のテーマを扱った際に書きたいと思いますが、内定取消を考える際にも重要になるポイントが、採用内定の性質です。
つまり、内定通知により雇用契約が成立するのであれば、企業は内定の通知後は勝手に内定取り消しができないことになります。
これまで、採用内定の性質の考え方としまして、
① 労働契約を締結する過程
② 労働契約を締結するための予約
③ 労働契約の成立
が展開されています。
しかし、最高裁判決が登場して、③の労働契約の締結の考え方に落ち着き確立していています。
「・・採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出とあいまって、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を・・・とし、それまでの間に、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない」
【大日本印刷事件/最二小判昭54.7.20労判323号19頁】
つまり、採用内定通知は、応募(申込み)に対する承諾にあたるもので、労働契約の成立になるとの性質をもつというものです。
したがいまして、申込みに対する承諾にあたる採用内定通知に位置づけられる場合には、労働契約の成立と考えられると抑えておきましょう。
4 解約権と契約の始まりと契約の成立の関係
3でみたように契約の成立ではあります。ただし、
① 誓約書などを取り交わしていて、誓約書の項目にあるような取消事由が発生して解約する解約権が留保された契約であること
② 就労の始期が定められた契約であること
にポイントがあります。
つまり、労働契約が成立していると言っても、契約の解約権と始期が付いている契約という点です。
5 採用内定通知=労働契約の成立と限定して見ないことも必要
大日本印刷事件の最高裁判決で留保されている部分がありますので掲載しておきます。
「企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがって、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するするにあたっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある」
【前掲 大日本印刷事件】
採用内定の形態や制度などには様々なものがあるので、事案ごとに性質を判断する必要があることを示していると考えられます。
その点で、採用内定通知が必ず労働契約の成立を導いているものかは、検討してみる必要があるということです。
別の機会に内定取り消し、内々定についてブログで書きたいと思いますが、そのような問題を検討するに際しても、労働契約の成立の話が登場するかと思います。まずは、前座としまして、採用内定について知っておいていただければと思います。
ご購読いただきましてありがとうございました。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】