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1 休職の捉え方
当事務所では、休職ほど難しいものはないと考えています。それは、休職にはいろいろな休職があり、企業の休職の捉え方も区々だからです。まず、休職についての基本を整理しておきたいと思います。
休職のイメージですが、一般的には、2・3日の風邪などの休みを休職と呼ぶと大げさな印象なのではないかと思います。そうすると、休職とは、病気・けがによるある程度の長い休み」のように、イメージされているかと思います。
また、漠然とですが、従業員が病気やケガで休むことを休職と言っている企業が多いように感じています。後で触れていきますが、まず、労務リスクが生じる要素の一つです。実務では、企業がどう取り扱いたいかにより温度差がでてきますが、基本的には次のような取り扱いになります。
労務の世界では、欠勤と休職は扱いに大きな違いがあります。要するに、病気欠勤と病気休職が違うということです。
㋐傷病欠勤(病気・ケガによる欠勤)
一般にですが、長く休むことになるかどうかわからない段階だが、休みが必要だと判断される場合は、病気欠勤として扱います。主治医の診断書を根拠に判断すべきと考えます。就業規則などにも、「〇日以上の欠勤の場合は、医師の診断書を提出する必要がある」旨を定める必要があります。傷病欠勤制度の規定がない場合には、ここの㋐はあてはまりません。
㋑傷病休職(病気・けがによる休職)
あくまでも一般にですが、傷病欠勤を経て、様子をみていたが、まだ長くかかりそうだと判断できる場合には、企業から休職命令を発令して休職期間として取り扱うことになります。傷病休職制度の規定しかない場合には、最初から休職命令を発令するか否かを検討する場面もあります。
休職命令を発令する権限は、就業規則や雇用契約書の規定等を前提として企業にありますので、診断書に基づいて客観的視点で慎重に発令する必要があります。休職期間の長さの問題がありますので、就業規則に、休職命令をいかなる場合に発令するか、休職期間の長さなどについて詳細に規定しておく必要があります。
実は、休職制度に関する規定の中で、規定があっても、内容がアバウトであったり、亜流我流であったりすることが多く、リスクを生じており、労働者の有利な主張材料に使われていることもあります。
休職命令は、企業によっては、傷病欠勤制度がない場合には、最初から発令するケースもあるかもしれません。それはそれでルールとしてはおかしいことではありません。
そのようなケースも踏まえてですが、1点お話しておきます。休職期間の趣旨です。
休職期間は、病気・けがを治すための期間ですが、それよりも重要なのは、休職期間には期限が設定され、期限までに復職できない場合は、雇用契約が終了になる(雇用契約の解約)ことがついている制度(退職までの猶予期間つきの休職)であるということです。
したがいまして、最初から休職命令を発令する場合には、退職までの期限付きであることから、諸事情を考慮する必要があるかもしれません。病気欠勤といった場合には、退職猶予はついていない休みと考えられています。
㋒そのほかの休職
㋐㋑の休職のほかに、事故欠勤休職、起訴休職、出向休職、自己都合休職、専従休職などがありますが、実務上はほとんどの場合で傷病休職か傷病欠勤ではないかと思われます。
2 よくある休職制度に関連する問題点
一般的に、企業が規則に沿って休職命令を発令していても、休職制度について従業員に周知していない場合には、従業員から知らなかった、知らされていない、説明されていないなどの言い分として主張されるリスクがあります。
少なくとも、休職制度の規定がある場合には、就業規則などを従業員が閲覧して確認することができる状態に置くことがリスクを排除する意味で重要になります。
次に、規定もあり、周知されていた場合でも、休職命令の発令にあたるか否かで紛争になることがあります。
これには、休職命令の発令に該当しないのに(たとえば、数週間加療すれば復帰可能などの診断が出ているなど)、強引に企業が休職命令を行った場合と休職命令の発令に該当するのに、企業が承諾しない場合(たとえば、主治医から長期療養が必要などの診断が出されているなど)があります。
これらは、従業員からの言い分は、働けるのに働かせてくれない、働けないのに出てこいと言われたなどの主張として表面化しやすくなります。多くの場合、紛争になります。
企業はどうすればいいかといいますと、診断書に沿った対応を心がけることが労務リスクの軽減につながります。また、企業としましては、企業の事情のみで決めるなどの勇み足にならないように、客観的視点で結論づけることがリスク軽減につながります。
補足ですが、医師の診断書では、たとえば、「1か月の休養が必要」などと記載されている場合がありますが、これは、必ずしも「1か月の休養で回復し復帰できる」と言っているわけではないということです。
医師も2か月3か月先の身体の状況は、確約できるわけではありませんから、この先、数週間から1か月程度の見込みしか記載していないことが多いと思います。そのように受けとめて、その都度、診断書の提出を求め、確認をとることが重要です。
また、医師の診断書は、患者の言っていることに基づいて、症状や療養期間などを記載していますので、患者よりのコメントになっているとの指摘もあります。企業として疑念がある場合には、会社が指定した専門医を受診させて、その診断書などで確認することも一案です。
さらに、休職期間の長さの問題があります。休職期間は、病気・けがを治すための期間であり、退職猶予期間ですから、その期間として、あまりに短い場合には、休職期間として評価されないケースも考えられます。
休職期間は、一般に、勤続年数に比例して期間設定されていることが多いのですが、短いとの印象が拭えない期間設定は、従業員から、「休まれたら困るとの企業の思惑だろう」との疑念を生じる要素になる可能性があります。
実は、こうした労務リスクは、何も問題が生じてない状況下では、従業員から声があがることがほとんどないため、埋もれた問題として根雪のように企業内に根付くことになります。そして、やがては、その歪が組織のほころびになる可能性も想定されるところです。
3 休職期間満了と復職の問題
休職をめぐる問題で頻発しているのが、なんといっても、休職期間満了か復職かのもめ事です。従業員の雇用契約終了(解雇又は自動退職)を伴うことから、必ずといっていいほど、労働問題化します。
問題になるのは、期間満了時までに、復職可能な状態にあると認められるか否かです。一般には、企業は復職可能とは言えないとの主張になり、従業員は、復職可能との主張になる構図です。
主治医の診断書に「復職可能」「軽業務の遂行は可能」などとなっていても、企業からすれば、休職前のようにバリバリ働けるとは言えないことが、復職可能とは認められないとの結論になり、労働問題になっています。
従前は、
【平仙レース事件・浦和地判昭40.12.16労判15号6頁】
【アロマ・カラー事件・東京地決昭54.3.27労判317号23頁】
等の例でみられるように、休職前の職務を行えるか否か、労働者の就労可能な範囲での勤務を希望しても使用者はそのような業務をみつける義務はないなどの考え方が顕著でした。
しかし、昨今は、経緯な業務につかせることで回復が見込まれる場合や契約上の職種限定がなく、軽易な業務を希望している場合などでは一定の配慮が求められる例が堅調になっています。
【北産機工事件・札幌地判平11.9.21労判769号20頁】
脳内出血で倒れ、病気欠勤180日の後、病気休職3年の満了となり、従業員は復職の意思を示していたにもかかわらず、企業が復職不可能と判断して争いになった事案があります。
裁判所は、「労働者が私傷病により休職になった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十分にできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置換え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである」と判断し、使用者が敗訴となっています。【東海旅客鉄道事件・大阪地判平11.10.4労判771号25頁】
休職満了時に、休職前の業務が、従前のようにバリバリできない場合でも、短時間勤務や軽業務や業務変更などをすれば働くことが可能である場合、休職期間満了と扱うことはできない可能性が高いことを示唆しています。ただし、これは、企業の実情により差があります。
小規模企業では、配置換えしたり、軽業務につかせたりなどの措置が困難であることが考えられますので、自社で可能な対処法を志向し、客観的にうちでは取るべき方法がないということであれば、休職期間満了退職も有効と評価される可能性があります。
企業にとりましては、頭が痛い問題になりかねないところですが、「休職期間満了で退職です」と結論を出す前に、慎重に検討する段階を設定していただき、相談していただければ
と思います。
休職に係る問題、病気に係る問題は、労使トラブルが非常に多い領域ですので、判断を下す前に休職の取り扱いなどについて日ごろから専門家の助言を受けながら遂行していくべきかと考えます。
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