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首都圏中央社労士事務所

 

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1 配置転換とは

 配置転換といった場合、小規模事業所では、「うちは、他に勤務地や部署なんてないから、配置転換の問題は関係ない」という声が少なからずあがります。

 

しかし、配置転換の概念は意外に広く、勤務地や部署の変更だけではないのです。職務内容が変わることも含まれるのです。たとえば、配膳係からレジ係に変えた、営業から経理事務に変えたなどといったケースなどが典型です。

 

 一般に、配置転換は、企業に一方的に権限があって、自由にできると考えがちです。他のこともそうなのですが、労務の世界は、最終的には、経営者が「決める」仕事をしなければいけませんが、正当な理由や状況に伴う配慮などが求められる点で、まったく好き勝手にしていいというわけではないのです。この点があまり浸透していないためか、ここにリスクが潜んでいるケースが多くあります。

 

配置転換に潜むリスクは、企業では、ほとんど認識されておらず、気づかずに配置転換をどんどんやってしまっているかもしれません。幸いなことに従業員から異議申立もないため、それで良しとなっていることも少なくないのです。しかし、表面化していないだけで、配置転換ひとつで、従業員と企業の間に不信感が生じ、溝が空いてしまうことは頻繁に起きています。

 

従業員に不信感がつのると気持ちよく働けなくなり、意欲も半減し、企業の生産性が落ちることにつながります。配置転換は、労務課題の中でも非常に従業員のデリケートな部分に関係する難しいきめ細かさが求められるものです。

 

企業としては異議申立をしてくる従業員を快く思わないというのはよくわかりますが、むしろ、声をあげてくれる従業員は何に不満を抱いているかがわかりやすく、声を挙げずに何も問題がないかようにしている従業員は本心がよくわからず、問題が顕在化した際に、簡単には収束しない可能性があります。

 

2 配置転換の根拠

 配置転換命令は、企業が自由にいくらでも命じることができるかのように思われがちです。企業に人事裁量権があるからといって無制限に認められるわけはありません。配転命令が有効となるためには、まず、企業に配転命令権があることを示す明確な根拠が必要です。

 

少し前までは、裁判例においても、雇用契約上の包括的合意事項として扱われており、企業の必要に応じて配置転換命令ができると考えられていました。重要判例を一つみておきます。

 

【】

 

このような考え方が踏襲されてきており、最近は、包括的合意よりも、契約上の根拠になっている必要があるという考え方になっています。

 配転命令権の根拠を示す最も一般的なものは、就業規則の「配置転換」若しくは「異動」といった条項でしょう。問題は、条項のタイトルではなく、規定内容のほうにあります。

 

「会社は、業務の都合により異動を命ずることがある」「会社は、業務上の必要がある場合、配置転換を命ずることがある」「会社は、業務の必要に応じて、勤務場所、部署、職種などの異動を命ずることがある」などの就業規則の規定は、配転命令権の根拠を示します。

 

 では、就業規則の規定で配転命令権があることは示されていても、これまで配置転換などしたことがなく、就業規則の配置転換の規定も形骸化しているような状況でなされた従業員Aに対する配置転換はどうでしょうか。

 

この状況だと配置転換の有効性に赤信号が灯る可能性があります。司法判断でも、「就業規則に基づき、配転が頻繁に行われていたこと」が、要件とされると考えられています【東亜ペイント事件・最二小判昭61.7.14労判477号6頁】

 

3 勤務限定などの合意があった場合にはどうか

 配転命令権は、就業規則の定めがあること、規定に基づいて頻繁に配置転換がなされてきたことが根拠になるところですが、別途、勤務地や職種限定の労働契約であるとされた場合は、配置転換は無効になります。

 

実は、この点も竹を割ったようにはいかないのですが、労働条件明示書(雇用契約書・雇入通知書)などで確認をさせていただくと、判別がつけることが可能です。もちろん、企業側の面接時や採用時の発言などにも着目する必要があります。客観的な事実を踏まえて検討することになります。

 

勤務地や職種限定の契約か否かは、労働者のほうも、知識がないため判別つかないのではないかと思われます。しかし、だからこそ、勤務地限定や職種限定の契約になっているとの主張がなされることにもなるわけです。

 

労働者が誤って捉えていることの要素に、労働条件明示書(雇用契約書・雇入通知書)で、勤務地や職種が記載されていることです。また、求人票で勤務地が記載されていたことなども同様の要素になり得ます。実は、このことで、勤務地限定や職種限定の契約だと断定はできません。当然、企業は、限定した契約にはなっていないと主張することになります。

 

入社して最初に交付するそれらの書面では、最初に配属となる勤務場所や職種を記載することになるからです。ここが、誤解が生まれる個所になります。一般に、配置転換において、勤務地限定や職種限定の契約になっているとの主張になるリスクはここにあると考えています。

 

このリスクをなくすことが主張の盾になるわけです。就業規則、労働条件明示書(雇用契約書・雇入通知書)などの工夫により対処できる点でもあり、それにより、リスク対策が可能になります。

 

4 配置転換の有効性で問われる他の要素

 ここからが、配置転換をめぐる最もめんどうでグレーな内容になります。企業にとっては頭が痛い内容です。企業の配転命令権が認められる前提としても、以下のことが問われます。

 

⓵配転命令に業務上の必要性があるか否か

⓶配転命令が不当な動機・目的に基づくか否か

⓷配転命令によって、労働者が通常甘受すべき程度を超える不利益を及ぼすか否か

 

⓵業務上の必要性がないと判断される場合は、配転命令権の濫用と評価されることになる可能性があります。

 

 たとえば、企業の構造改革に伴うものとして、一定の業務についていた従業員に、新たに新幹線通勤や単身赴任の負担を負わせる配転命令【NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件・大阪高判平21.1.15労判9775頁】、使用者が解雇撤回した後に、職場復帰をする労働者に対しなされた、大阪から名古屋への配転命令【C株式会社事件・大阪地判平23.12.16労判104315頁】など、業務上の必要性が否定されているものがあります。

 

⓶業務上の必要性が認められる場合でも、配転命令が不当な動機・目的で行使された場合には、配転命令権の濫用と評価されることになる可能性があります。

 

 たとえば、退職に追い込むための配転命令【フジシール事件・大阪地判平12.8.28労判79313頁】、社長の経営方針に批判的言動をとった報復としての配転命令【マリンクロットメディカル事件・東京地決平7.3.31労判68075頁】、【アールエフ事件・長野地判平23.12.21労判107126頁】などがあり、配転命令が不当な動機・目的によるものと認定されています。

 

⓷業務上の必要性が肯定され、不当な動機・目的はないとされる配転命令でも、配置転換命令を受ける従業員にとって、通常の配転命令として甘んじて受けるべき程度の不利益を著しく超えるものとなる場合は、配転命令権の濫用と評価されることになる可能性があります。

 

たとえば、配転命令を受けた従業員の状況として、㋐病気の家族を複数抱えており、一人で看護していた【日本電気事件・東京地判昭43.8.31労判7747頁】、㋑障害を持つ両親を妻や妹らと介護していた【NTT東日本(北海道・配転〕事件・札幌高判平21.3.26労判98244頁】など、病気や障害者の状況から、配転命令を受けた従業員が看護や介護をせざるを得ない状況にある場合には、配転命令によって、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るとの評価がされています。

 

最も、通勤時間が1時間長くなり、保育園に預けている子供の送迎等が難しくなるなどの程度【ケンウッド事件・最三小判平12.1.28労判7747頁】では、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るとまでは言えないと評価されています。

 

これらの判断や検討は、非常にグレーゾーンのテーマで、結論は簡単ではありませんが、配転命令にゴーサインを出すか、慎重になって留まるかを決める際の柱となるものです。他に、4番目の要素と言っても過言ではないと当事務所で考えている要素があります。

 

⓸配転命令に際しての企業の配慮義務

です。

 

育児介護休業法では、「配置の変更で就業の場所の変更を伴う」場合には、「就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるとき」は、その状況に「配慮しなければならない」との規定がある(育児介護休業法大26条)ところでもあります。

 

労働契約法でも、「仕事と生活の調和に配慮すべき」ことが規定されています(労働契約法第3条第3項)。

 

また、司法判断でも、労働者の私生活上の不利益を慎重に検討する例が目につくようになっています【明治図書出版事件・東京地決平14.12.27労判86169頁】、【ネスレ日本(配転本訴)事件・大阪高判平18.4.14労判91560頁】。

 

5 労働問題化する典型的な構図

以上の4までの話は、とても一筋縄ではいかないのですが、これらを踏まえつつ、実務での労使紛争に発展しやすい構図について触れておきたいと思います。

 

まず、企業が配転命令をすると、納得いかない労働者から異議申立がなされます。言い分としては様々ですが、当事務所の経験で多いと感じているものとしては、以下のような反論内容です。ここでは反論が正しいか否かは触れていません。あくまでも主張内容の例です。

 

・「自分は、今の業務を長くやってきた。取引先との信頼関係もあり、顧客は自分がいるから発注してくれている。自分は他に行ってしまうと会社の発注や売上にも支障がでてくる」

・「自分は足が悪くとても満員電車で通勤することは困難だ。」

・「今まで、通勤時間が20分だったのに、配置転換で2時間になってしまう。往復4時間

は今までの6倍で不利益が大きい」

・「今の部署でのノウハウが蓄積されているし、業績も上げてきた。今度の配置転換先の業務は今までの仕事とまったく別世界で全く関連性がない」

 

このように、配転命令を受けた個々の従業員の事情で言い分もそれぞれです。

 

一方、企業の言い分は、一言対応がほとんどです。

・「とにかく、決まったことだ。行ってもらわないと困る」

・「決定事項だ。変えられない」

・「適材適所として考えた配置転換だ

・「必要だと判断したうえでのことだ」

・「あなたなら能力を活かして活躍できると考えた」

 

ここまで詳細にお伝えすると、労使の構図が見えたのではないかと思います。従業員は、個人個人が置かれた状況を言ってくる。それに対し、会社は、たった一言の言葉しか発言せず、「行ってくれ」の姿勢を強固に曲げない態度に徹しています。労使双方ともに問題があると考えられます。

 

配置転換が配転命令権の濫用にあたるか否かは、実務において個々の事案ごとに検討するとして、当事務所は、こうした労使の構図に労働問題化の種が存在する、あるいは、労務リスクができてしまうと考えています。

 

従業員も企業も、「双方とも決して必要十分、主張はごもっとも」とはいかず、どちらにも問題があります。双方に問題がある場合、コントロールは企業の対応の仕方にかかっている場合がほとんどです。

 

異議申立をしている従業員に対し、一言で済まそうとする頑なな態度を崩さない対応が、事をエスカレートさせてしまうことになることがとても多いのです。

 

ここが急所ではないかと当事務所は考えています。詳細は、個々の事案ごとに異なりますので実務の労務リスク対応、あるいは、事後対応に譲りたいと思います。

 

 

 

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