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1 パワハラとは何か

パワハラ、パワハラと言葉はよく飛び交うようになりました。一般に、パワハラに従業員は「あたる」、企業や加害行為者とされる者は「あたらない」との構図になります。パワハラにあたるあたらないに固執して熱くなりがちです。

 

しかし、パワハラ問題の急所は、そこに中心があるのではありません。後半のほうで触れていきます。まずは、堅い話で恐縮ですが、まず、考える際には定義を踏まえる必要があります。企業、加害行為者とされる者、被害者とされる者にとって、パワーハラスメントにあたるか否かにフォーカスすることになるからです。

 

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」

2020年6月から立法化されました条文でもみておきましょう。

※中小企業は2022年4月適用

労働施策総合推進法第30条の2(抜粋)

30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

この職上の優位性(これが「パワー」)に基づいて、あるいは、それを利用して、いじめ・嫌がらせ行為をすることになります。

 

ちなみに、一方に優位性があるとは言えないような同僚間での行為はどうなのかについては、

原告は被告に「カートリッジを1つ注文してください」と告げた。被告はひごろ原告の口調に不満があり横柄に23個注文すると告げた。原告は、「2つも3つも一度に買ったら置く場所がないし、値段も高くつく」と言うと、被告は「それだけ分かっているのならあんたがやればいいじゃないか」と言い返した。原告は「注文の仕事も覚えなあかんでしょ」など言い返し、被告は「いつもいつも指図するな」と言って口論になった。被告は「あんたはいつも指図する。俺は女に指図されるのはきらいなんや」等と言い、原告は「指図はしていない」と言い、被告は「暇があるんやったらお前がやれ」と怒鳴ったことで、原告も「誰が暇あるんや」と怒鳴った。激高した被告が右平手で原告の左顔面を1回殴打した。裁判所は、本件暴行は被告会社の業務の執行つき加えられたもので、被告会社は被告と連帯して損害賠償の責任を負う」として、同じ課に属する同僚間の暴行で使用者責任が認められた。なお、暴行事件の後に、仲直り、上司による解決の報告があつが、損害賠償を請求しないとの和解あるとは言えないとされている。【アジア航測事件・大阪地判平13.11.9労判82145頁】

などの例があり、同僚の行為が、決してパワハラ問題にならないと言えるものではないようです。

 

優位性は、先輩・後輩、年上・年下、業務スキルの高い・低い、仕事ができる・できないなど幅広く

捉えなければなりません。

 

経営者の方は、自分は従業員にそんな行為はしないとの頭になりがちですが、パワハラ問題は、従業員間のものが多く、だからといって、経営者は関係ないとはならない点にあります。

 

2 パワハラの行為類型の基本と法律

2020年6月までは、パワハラを規制する法律が存在せず、行政指針やパワハラとされ得る行為の考え方や枠組みなどでなんとかグレーな問題に対応していました。2020年6月労働施策総合推進法第30条の2にパワハラの定義や事前措置・事後対応が明確に規定され、法律上の義務事項となっています。

 

中小企業は、2022年4月からの適用となっていますが、あっという間に適用になりますし、それまでに環境を整えることを考えますと準備期間としては余裕があるわけではありません。

 

しかし、新規の法律だけですと、いざ問題になった場合に検討しようもありませんから、目安となる類型があることを頭の片隅に置いておくといいかと思います。

 

厚生労働省が提言として通知する典型的なパワハラ類型です(これに限定してはいません)

これら以外の行為が問題がないわけではないことに注意する必要があります!)

 暴行・傷害(身体的な攻撃)

 ②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

 ③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

 ⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

からは業務上必要なことの範囲にはあたらないとされていますが、からは、業務の適正な範囲の線引きが難しく、行為の状況などから個別にみなければいけないものです。

※100例あれば100通りの行為があり、みな異なりますので非常にやっかいな問題です。

 

ざっくりとした目安は、権限などの優位性のもとでの行為か、業務の範囲を超えている行為かということになります。あくまでもざっくりとした目安ですが・・・。

 

3 法的に検討する際の尺度

いじめ・嫌がらせと言おうが、パワハラと言おうが、○○ハラスメントと言おうが、損害賠償の問題になった際は、人格権侵害行為と言えるかという点を検討することになります。

 

人格権侵害ですが、人格的利益の侵害と考えてもかまいません。

 

この人格的利益とは、良好な職場環境、信用、名誉、健康、自由な人間関係の形成、自己決定、仕事へ意欲など、従業員にとっての利益を意味します。

 

セクハラは、被害者と言い得る者の意に反した性的嫌がらせなので、被害者と言い得る者が嫌がっていなければセクハラにあたらない可能性があります。しかし、パワハラは、パワハラの被害者と言い得る者は、パワハラだと受け止めていないからパワハラなどにあたらないとなるわけではないことが、セクハラとの大きく違う点です。

 

4 パワハラで企業側が問われる問題とリスク対策

パワハラの事案では、例外なくと言っていいほど、労使双方ともパワハラにあたるかいなかに執着します。しかし、労働者が専門家に相談した場合に、パワハラが起きないようにどれほどの措置・対策を行っていたか、起きた後はどのような対応だったかなどが重点的に問われることになる可能性があります。

 

パワハラにあたらないと主張しても、聞き取りなどの調査も何も行われていない状況下では、未対応あるいは調査不十分などの不作為が不利な要素になることもあります。

 

よくあるのは、被害者と言い得る者からの申し出があり、企業も調査を行いました。しかし、その調査が、10分程度で周囲の従業員に一言確認した程度の内容であることが多くあります。

 

企業の調査能力や企業の体制なども関係しますが、調査というレベルになっていないことが多いということも、被害者と言い得る者との紛争をエスカレートする要素になっています。

 

小規模企業では、パワハラの事後対応専門の組織はありません。経営トップ自ら対応する役割なのですが、経営トップ自らがパワハラのようなめんどうな問題に対応することを避ける傾向にあり、問題が放置されることになることから、パワハラ問題が紛争化していることが散見されます。

 

大規模組織では、コンプライアンス委員会などの専門組織があることが多いにもかかわらず、組織メンバーが経営側の立場になり、客観的な立ち位置での対応になっているかが、被害者と言い得る者からは疑念視されるところとなっており、その点が紛争化の要因にもなっています。

 

パワハラは、社会的にかなりメジャーになっており、声があがる機会が増えています。企業からすれば、「何でもパワハラと騒いで」と言いたいところですが、そう主張したところで丸く鞘が収まるわけではありません。

 

企業がやるべきこと

➀事前措置

・具体的なトップメッセージの発信

・パワハラの注意喚起

・リーフレット、掲示板などの準備

・従業員への研修

・幹部社員への研修・動機付け

・相談ツール類の整備

・客観的姿勢による相談体制・調査体制を敷く

・パワハラの社内勉強会

 

②事後対応

・被害者と言い得るものから、時間や回数をかけて念入りに聞き取りを行う。

・関係者や周囲の従業員から、時間をかけて念入りに聞き取り、確認を行う。

・被害者とされる従業員から念入りに聞き取り、確認を行う。

 

俗に言う「調査」が必要になるわけですが、加害行為者や周囲の者にちょっと聞いて、「みんな知らないと言っているから、今回はパワハラと扱うことはできない」との結論に執着するケースが非常に多くあります。

 

「調査」とは、ある事情を明らかにするために調べる行為です。つまり、わからないことや不確かなことを聞いたり、見たりして確かめる一連の作業を指します。難しい作業ですが、加害行為者やとばっちりを受けたくないと思う従業員は保身の姿勢をとるのは当然ですから、否定することを含めて調べることを行ったという実績を担保することがリスク対策の点で重要になります。

 

詳細は実務に譲るとしまして、少なくとも、これらのことは意識する必要があります。当事務所でも、パワハラ問題に携わることが多くありますが、事前措置がされているケースが非常に少ないように感じています。このあたりも、企業にとって、足元をすくわれる要素になり得るところです。

 

逆に言えば、できる限りの範囲において事前措置を行っていることで、主張すべき点を堂々と主張できますし、リスク軽減にもつながります。

 

さらに、被害者と言い得る者がパワハラで悩んでいる状況下で、加害行為者と言い得る者から発せられる、「指導の一環だ」などの詭弁も紛争化しやすくする要素になりやすいと考えられます。

 

5 問題になる言動の例

人格否定等になるとされた言葉の例

「ぶち殺そうかお前」「おまえはやる気がない」「馬鹿野郎」「給料泥棒」「馬鹿だな」「使えねえな」「大学出ても何にもならないんだな」「まじめにやれ」「自己愛が強い」「子宮でものを考えている」「どうしていつもあなたはそうなの」「なんでできないの」「あなたの顔をみるとイライラする」「新入社員以下だ」「小学生の能力しかない」「その仕事ぶりは給料分に相当していない」「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」「死んでしまえ」

 

退職・解雇・処分を示唆する言動がパワハラになるとされた例

「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべき」「会社にとって損失」「辞めていいよ、辞めろ、辞表を出せ」「これ以上続けると、われわれも相当な処分をするからな」「会社を辞めた方がみんなのためになるんじゃないか」「俺は、いつでもやめさせることできんだぞ」

 

パワハラの態様が問題になった例

・怒鳴る・噂をばらまく・皆の前で叱責する・書類を放り投げる・書類をみない・契約上の業務をさせずに電話当番のみささせる・草むしりのみさせる・同じことを繰り返し説教する・暑い夏に一人にだけ飲み物を与えない・冬に扇風機で風をあて続ける・メールを送信してこない・親睦会に呼ばない・業務連絡をしない・通り際にいすを蹴飛ばす・100度の熱い窯に入って掃除しろと言う

 

回数・時間が問題になった例

「殺すぞ」「あほ」などと言ったことに対し、「監督者が監督を受ける者を叱責し、あるいは指示等を行う際には、労務遂行の適切さを期する目的において適切な言辞を選んでしなければならない」とし、「それが1回だけといったものであれば違法とならないこともあり得るとしても、被控訴人によって当惑や不快の念が示されているのに、これを繰り返し行う場合には、嫌がらせや時には侮辱といった意味を有するに至り、違法性を帯びる」と評価されています。【アークレイファクトリー事件・大阪高判平25.10.9労判108324頁】

叱責の時間は概ね5~10分程度に及び、頻度は少なくとも週に2・3回程度、ミスが重なると日に2・3回程度に及んだ【岡山県貨物運送事件・仙台高判平26.6.27労判110026頁】

 

退職強要の問題になった例

 顧客への接客態度の問題、特定業務の自粛指示に抵触する行為、業務の懈怠、女子社員の教育をしなかったなどを理由に始末書を幾度となく提出し、降格・降職のうえ配置転換となった原告が、人事権の濫用で無効等を主張した事案である。裁判所は、降格・降職は人事権の裁量の範囲であるとした。しかし、配置転換については、函館市内統括部強化の目的のものなのに、1か月程度で今金支店に移動させるなど不自然で、未だ合理的説明がなされてない、大幅な減給を行い、新築の自宅がありローンがあるのを知りながら、単身赴任を強いて経済的に二重生活を余儀なくされる配転行為であるとした。結果、慰謝料の点では、電話応対や雪かきの件で、部課長10名の面前で被告から嘘をつく職員は使えないなどと叱責されたこと、函館支店の通常業務から外され、就業規則やその他諸規程を読む作業に専念するよう余儀なくされたこと、原告に対する指導教育上の措置、配慮があったことを窺えないことなどから、「原告に対し暗に退職を強要しているものと推認されてもやむを得ない状況にあると思料され、仮にそうでなくとも、被告の原告に対する措置は、原告にことさら屈辱感を与えるものであ」るとし、「業務命令権なし労務指揮権の濫用として違法であ」り、「原告は精神的な人格的利益を侵害されたものと認められる」とされ、使用者責任が認められていまる【渡島信用金庫事件・函館地判平14.9.26労判84158頁】。

 

 

 

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